監修:筑波大学 健幸ライフスタイル開発研究センター長 筑波大学医学医療系 地域総合診療医学 准教授 吉本尚先生

こんな場合は依存度のチェックをしてみましょう

飲酒によるブラックアウト

どうやって帰ってきたのだろう

「あれ、ここは……私の部屋? ベッドの上?」

窓から差し込む朝日の光で目覚めたDさん。着ている服は昨夜のまま、なぜかひざをケガしていて血がにじんでいます。

「昨日の夜は……後輩の送別会のあと2次会に行って、ダーツして、カクテル飲んで、えーと、それから覚えてない……」

懸命に思い出そうとしますが、一体どうやって帰ってきたのか、記憶がありません。ふと時計を見るともう8時過ぎ。

「しまった、こんな時間!」

Dさんは大急ぎで支度して家を飛び出し、通勤電車に飛び乗るのでした。

周囲からの冷たい視線

「おはようございます」

オフィスのドアを元気よく開け、明るく挨拶しながら自分の席に向かうDさん。しかし、自分に向けられる眼差しが、心なしかいつもより冷たい気がします。

「ねえ、ちょっと」と同僚がDさんに体を寄せてきて、「昨日は大丈夫だった? ちゃんと帰れたの?」

「うん、一応帰れたんだけど、全然記憶がなくて……」

「覚えてない? 道でいきなり全力疾走して派手に転んだことも?」

「え、そんなことしたの私? それでひざをケガしてたのか」

「あと、3次会でしつこく先輩に絡んで怒らせちゃったことも?」

「うそ!」

Dさんは全身から血の気が引くのを感じました。

お酒の失敗は“武勇伝”だと思っていた

その同僚は、最近Dさんの飲酒量が増えているのを気にしていたのだそう。

「昨日だけじゃないよ、ひどい酔っぱらい方してたの」

そういえば、自分がお酒に強くなってきたと思って、最近は無茶な飲み方をしていた。まったく記憶がないことは初めてだったが、飲んだ量を覚えていなかったり、会話の内容を覚えていないことはしばしばあった。しかし、そんなこともぜんぶお酒の“武勇伝”だと思っていたDさん。

しつこく絡んでしまったという先輩のほうを恐る恐る見ると、いつもならにっこり微笑んでくれるその人は、Dさんと目が合うなりさっと視線を反らしてしまうのでした。

「ブラックアウト」と呼ばれる症状

ご紹介したケースのように、飲酒時の記憶を失ってしまうことを「ブラックアウト」と言います。これが時々ではなく頻繁に起きるようであれば、単なるお酒の失敗ではなく、アルコール依存症の可能性が考えられます。

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