アルコール依存症Q&A
急性アルコール中毒
- アルコールによる危険状態とは?
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急速に多量飲酒すると、「急性アルコール中毒」の状態となり、死に至るケースがあります(下表)1)。血中アルコール濃度が0.15%以上になると、意識レベルが低下するとともに、激しい嘔吐や低体温、血圧低下、頻脈、呼吸数減少、尿・便失禁などの症状がみられるようになります。さらに、血中アルコール濃度が0.4%以上になると、昏睡から死に至る危険性が高まります。例えば、性・年齢・体重にもよりますが、短時間に日本酒5合またはビール中ビン5本以上飲んだ場合に血中アルコール濃度が0.4%を超える危険があると言われています。
飲酒量 - 血中アルコール濃度 0.15%以上が中毒域である
- 血中アルコール濃度 0.4%以上では死に至る危険性が高い
リスクの高い方 - アルコール分解の遅い方(未成年者、女性、体の小さい方、飲酒後顔の赤くなる方)
症状 - 意識レベルが下がってくるとともに、激しい嘔吐、低体温、血圧低下、頻脈、呼吸数減少、尿・便失禁などの症状が出てくる。さらに血中濃度が上昇すると昏睡から死に至る。また、嘔吐物を喉に詰まらせて窒息死することもある。
文献
- 1)編集/ 樋口進. 最新改訂版 エビデンスにもとづいた新・アルコールの害. 少年写真新聞社;2012. P22-23 (より作表)
- お酒の脳への作用について教えて下さい
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厚生労働省は、「他の一般食品にはないお酒の特性」として、「致酔性」という表現を用いています。酔いに至らしめるとは難しい表現ですが、簡単に言えば、“酔っぱらわせる性質”があります。重要なのは、「お酒は基本的に脳の働きを抑える」物質で、個人差もかなりありますが、飲酒量に応じて、血液中のアルコール濃度が高くなるにつれて、脳の各部位の機能が低下し始めます。
まず、酔い始めると脳機能のブレーキにあたる部分がうまく働かなくなります。はじめのうちは陽気になるという場合が多いですが、涙もろくなったり、怒りっぽくなったりすることがあり、次第に抑えられている感情のコントロールが効かなくなります。
量が増えると、記憶が障害されたり、考える力が低下したりします。
さらに量が増えると歩行が障害されたり、呼吸が障害されたり、意識を失うなど、命にかかわる可能性もありますので、自分の体に合った飲み方を知る必要があります。
- 酔うと人に迷惑をかけてしまう時がありますが、あまり覚えていません。酔い方にも違いがあるのでしょうか?
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お酒を飲むことで酔いがすすみ、酩酊と言われる一種の急性アルコール中毒の症状を示すことがあります。酩酊状態の大半は飲酒量に応じて酔いの程度が変化します(単純酩酊)が、飲酒量に関係なく異常な酔い方をする場合があります。これを異常酩酊といい、異常酩酊には複雑酩酊と病的酩酊があります。
複雑酩酊はいわゆる「酒乱」と呼ばれる状態で、気分が易刺激的になり、暴力的な言動や、興奮状態が長く続きます。自分の置かれている状況は理解できるため、行動に一貫性があります。部分的に記憶をなくすこともあります。血中のアルコール濃度が180mg/dL以上になったときに出現されやすいとされています。
一方、病的酩酊と呼ばれる状態は、血中のアルコール濃度に関係なく出現します。記憶をなくし、自分の置かれている状況が理解できず、行動に一貫性が無くなります。不安や興奮、ときに幻覚妄想状態をきたすなど、精神的に不安定な状態となります。また、お酒を飲んでいないときには見られないような攻撃性や暴力的な行動が突然出現する場合もあります。
このような異常酩酊の状態が、飲酒時のけんか、暴言、事故、犯罪行為などの原因となっている場合もあります。
- お酒を飲むとどうして酔っぱらうのか、そのメカニズムを教えてください。 また、飲む量や種類によって酔いの状態はどのように変わるのでしょうか?
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飲酒後、血液によって脳に到達したアルコールは、脳を麻痺させ、酔った状態を作ります。 酔いの程度は、脳内のアルコール濃度によって決まります。ただし、実際に脳内の濃度を測定するのは不可能なため、代わりに血中アルコール濃度によって酔いの程度を判定します(酔い方には個人差があります)(下表)1)。
アルコール血中濃度と酔いの状態
文献
- 1)社団法人アルコール健康医学協会ホームページ. http://www.arukenkyo.or.jp/health/base/index.html(2023年1月現在)
お酒の適量
- 適正飲酒量という基準があるのですか?
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ほどほど、適度に、などの曖昧な表現を避けるために基準が定められています。栄養指導の「カロリー」に当たる飲酒量の単位を「ドリンク」といい、「純アルコール10gを含むアルコール飲料」が「1ドリンク」です。
厚生労働省が定めている適正な飲酒量は「節度ある適度な飲酒」と表現されています。お酒を飲んでも赤くならないタイプの体質である健康な男性で1日2ドリンクまでとされ、この量に相当するのは、ビール500mL、ワイングラス2杯、日本酒1合弱、焼酎0.5合程度です。
- 「節度ある適度な飲酒」はわかったけど、アルコール量の計算って難しいですね
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アルコール量の計算は慣れないと難解ですので、「SNAPPY-CAT」(Sensible and Natural Alcoholism Prevention Program for You: Computer Advice Technique)というプログラムが開発されています。いつでもどこからでもアクセス可能なウェブ上のプログラムであり、年代や性別、そして飲酒スタイルに応じた、個別性の高いフィードバックを提供しています。
このサイト内にはSNAPPY-PANDA(Preventive Apparatus for Not Driving under the influence of Alcohol)というツールもあります。いろいろな種類のお酒がイラストで表示してあり、それらを棚に並べて「確認」ボタンを押すだけで自らの飲酒量や、その量に基づいたアルコール分解完了時刻を自動的に算出できます。自らのアルコール関連問題に興味が無い場合でも、飲酒運転をしないために利用するだけでもよいでしょう。
さらに、スマートフォンのアプリも開発されており、無料で利用することができます。沖縄県が作成した「節酒カレンダー」はアルコール量の計算機能だけにとどまらず、記録をつけることを続けやすくする工夫が満載で、毎日15時に声をかけてくれる設定もできますので、毎日意識することが可能になります。
- お酒を飲める人と飲めない人がいますが、何か判別する方法はありますか?
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体質的にお酒を飲める・飲めないというのは、お酒を分解する力の差であり、いくつかの遺伝子で決められています。ここでは一番影響の大きい遺伝子について説明します。
黄色人種以外の人はお酒を分解できる力が備わっていますが、一部のアジア人はお酒を飲むと赤くなる(つまりお酒を分解する力が弱い)遺伝子を持っていて、遺伝子で親から子に伝わります。
日本人では約半分の人が赤くならないタイプ、残りの約半分が赤くなるタイプです。赤くなるタイプの人のうち、約5%の人は、ほんの少しのお酒も飲むことはできません。アルコールを分解する能力の差だけではなく、脳がお酒にどれくらい影響を受けるかという面も重要です。つまり、分解ができる能力がある人でも、少しのお酒で脳が反応する人は少しの量で酔いが回ります。
お酒を分解する能力に関する遺伝子のタイプを簡単に調べるにはアルコールパッチテストがあります。特に、実際にお酒を飲むことのできない未成年にとっては、このテストは自分の代謝能力を学ぶ良い教育の機会となるでしょう。
お酒との付き合いかた
- 先輩や上司など目上の人に注がれると断りにくいのですが、どうすればいいですか?
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車で飲み会に行くと、飲酒運転を勧めるわけにはいきませんので、断りやすいでしょう。ただし、代行運転があると言われると困ってしまうことも多く、別の理由も必要になってきます。健康な場合は、「飲み会の後に家族を運転して連れて行く用事がある」「お酒と飲み合わせのよくない薬・サプリメントを飲んでいるので」など、それ以上飲酒を勧めるわけにいかない理由を考えておくといいでしょう。体調がよろしくない場合やアルコール依存症を抱えている場合は「肝臓を壊していて、ドクターストップがかかっている」、「飲むと命にかかわると医者から脅されている」、等体調に絡めてシンプルに答えるとよいでしょう。その他には、飲酒を勧められる席そのものを回避することも検討してもよいでしょう。
少し準備が必要になりますが、瓶から注がれないように別のお酒を注文(お店の人に事前にノンアルコール飲料にしてもらうようお願いしてもよい)したり、場の雰囲気を壊さず、なおかつ「はっきり」「相手の目を見て」断った方がよい場合もあります。小声で自信なさそうにしていると、人によってはどんどんお酒を注いだりしますので、自分に合った断り方を何か身につけておきましょう。
- お酒は飲んでどのくらいたつと分解されるのですか?
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お酒を飲んで、胃や腸から吸収されて血管に入り、肝臓で分解されるまでの速度には性差があり、女性の方が相対的に遅い傾向があります。
また、個人差も多く2ドリンク(純アルコール20g)のお酒(ビール 500mL・日本酒1合弱など)を分解するにあたり、女性なら2-5時間、男性なら1.5-4時間程度の時間を要します。
アルコール・薬物関連3学会の飲酒運転対策プロジェクトで定められた、運転するのに安全なアルコールの分解速度は1時間あたり4g(2ドリンク{ビール 500mL}で5時間かかる計算になる)であり、最も時間がかかる場合が想定されています。
SNAPPY-PANDAも有用です。
その他にお酒を分解する速度を決める要因として、年齢(中年>未成年者・高齢者)、体格(大きい>小さい)、お酒の分解に関する遺伝子(飲酒後に顔が赤くならない>顔が赤くなる)、意識の状態(覚せい時>睡眠)、そして、食事(食後>空腹時)が影響します。なお、肝臓の大きさや筋肉量、体調などによっても変動します。
- お酒の飲みすぎは良くないというけれど、何故ですか?
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お酒を飲みすぎると血中アルコールの濃度が上昇することにより記憶を無くしたり(ブラックアウト)、事故、転倒、ケガ、また暴言や暴力といった問題の原因となります。また飲みすぎた翌日はアルコールの代謝産物であるアセトアルデヒドにより二日酔いが引き起こされ仕事や家事などのパフォーマンスに影響を及ぼします。また短時間に大量の飲酒をすることは急性アルコール中毒の危険性が増します。
さらに、長期間にわたり飲みすぎの習慣が続くことにより、がんや肝機能障害、高血圧などの心血管疾患、うつ病、アルコール依存症などの危険性が増します。
お酒の心と身体への影響を知りたい方は、SNAPPY-BEARも有用です。
- 眠れない時にお酒を飲む習慣があるのですが、大丈夫でしょうか?
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お酒は睡眠の質と量の両方に悪影響を与えます。その理由として、中途覚醒の増加、睡眠効率の低下が指摘されています。しかも、お酒を飲み続けていると酔うまでに必要な量が増えていきますので、寝るための飲酒も続けているうちに飲酒量が増える傾向が強くなります。その結果アルコール依存症のリスクを高め、診療において寝るための飲酒が原因でアルコール依存症に至っている人も少なくありません。
国内でも「睡眠のために飲酒している人が多い」ことが明らかになっています。国際比較研究では「眠れないときにどのように対処していますか?」という問いに対して、日本の国民の約30%が飲酒で対処すると回答しており、参加10カ国中で最も高い割合でした。また、厚生労働省の調査では、成人男性の9%、女性の5%が寝るための飲酒の習慣があったと報告されています。そして、2007年の調査報告では1週間に1回以上寝るための飲酒を行っている割合が男性で48.3%、女性では18.3%と報告されています。
お酒は睡眠だけでなく、不安・抑うつ症状との関連も強く、いずれの治療にも悪影響を与えることがわかっています。自殺予防総合対策センターのパンフレット「のめば、のまれる」の中においても同様に、寝るための飲酒が有害であることを指摘されています。大規模かつ長期間の調査でも不眠は自殺のリスクを高めると指摘されており、飲酒と睡眠と自殺の関係も密接であると考えます。
- 親が酒飲みだと子供もそうなることが多いのはどうしてですか?
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お酒を飲む環境があれば、その周囲の人が飲酒しやすくなるという意見もあるでしょうが、お酒を分解する力や脳に対する作用やその反応などは、遺伝子に大きな影響を受けています。
一卵性双生児(遺伝子が全く同じ)や里子などを観察した研究によって、アルコール依存症にかかる可能性について、遺伝子か生まれ育った環境(人も含めて)か、どちら側の影響が強いかを比較する割合(遺伝率といいます)がすでに報告されています。
アルコール依存症は遺伝子:環境=6~5:4~5で、やや遺伝子の影響の方が強いと言われています。アルコールを分解しやすい肝臓、アルコールによる酩酊を快と感じやすい脳、酩酊を必要としやすい性格傾向など、遺伝子に多くの影響を受けます。
環境としては、親の飲酒行動を見て単純にまねる可能性が高くなるでしょう。そして、親が多量飲酒者の場合、子供も家庭内で思っていることを言葉などで表現することを避けるようになり、慢性的な緊張状態に置かれるため、やがて子ども自身が成長過程でアルコールに頼って感情を緩める手段を取りやすくなります。
- お酒を飲み続けると認知症になるのでしょうか?
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個人差はありますが、お酒を飲み続けるとほとんどの人は脳が萎縮すると言われています。実際に日本人を対象とした研究では、1日あたりアルコールを40g(ビール1000mLもしくは日本酒2合弱) 飲酒する習慣のある人は、そうでない人よりも脳が萎縮することが報告されています。必ずしも脳の萎縮イコール認知症ではありませんが、長い期間飲酒習慣のある人は生活における問題が生じる前に相談してください。
さらに、特に食事を摂らないで飲酒する習慣がある人は、ビタミン不足を原因とする認知症を発症することもあります。つまり、習慣的に飲酒する人は食事をしっかり摂るなど栄養面への注意が必要です。
あわせて知っておきたいことは、飲酒を原因とする脳萎縮は断酒によって元に戻る部分もあるという事です。長期間飲酒習慣のある人にとってはかなり時間がかかることもしばしばですが、ねばり強い断酒が改善をもたらす可能性があることも同時に知っておいてください。
アルコール依存症
- アルコール依存症になったら自分で気が付くものですか?
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自分自身では気づきにくく、家族や職場の方が気づく場合が多いです。
世界保健機関(WHO)や米国精神医学会(APA)などの診断基準において、依存症の本質的特徴とは、飲酒によって発生した何らかの重大な問題を抱えているにも関わらず、飲酒し続けるという状態のことを指しています。
この問題とは、健康上の問題だけにとどまらず、人間関係上の問題もあり、夫婦間の暴力や夫婦間でのコミュニケーションの問題として現れることもあります。また、社会的・法的問題として、飲酒下での事故、犯罪をきっかけとして問題飲酒を指摘されることや、職場では飲酒に関連する問題行動などから雇用問題に至ることがあります。
お酒を多量に飲む習慣となった場合、このような問題に自身で気づくことはなかなか難しく、認識できていたとしても、そのことを認めたくない心理が働くことも多いでしょう。
つまり、「私は問題ない。うまく酒を飲めている」と当事者が考えていても、ご家族や職場の方はとても困っていることが多くなるのです。治療現場の印象では、自ら受診に至る場合はまれであり、ご家族や職場の方が受診を勧めることがほとんどです。
つまり、アルコール依存症とは自分自身で気づくことがとても難しい病気であるといえます。
- アルコール依存症の診断はどのようにされるのでしょうか?
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日本においてアルコール依存症の診断は世界保健機関(WHO)が作成したICD-10の診断ガイドラインが汎用されています。診断項目は6項目にわかれており。過去1年間に、そのうち3項目以上が同時に1カ月以上続いたか、または繰り返し出現した場合にアルコール依存症と診断されます。各診断項目に当てはまる症状について具体的に下図に示していますので、参考にご覧ください。
アルコール依存症(alcohol dependence syndrome)のICD-10診断ガイドライン
過去1年間に以下の項目のうち3項目以上が同時に1カ月以上続いたか、または繰り返し出現した場合
1.飲酒したいという強い欲望あるいは強迫感
- 隠れてでも飲んでしまう
- お酒が手元にないと不安
- お酒のためなら面倒くさがらずに出かける
- 仕事中でもお酒のことばかり考えている
- 仕事が終わったら1人でも必ず飲みに行く
- 仕事中でも飲んでしまう
2.飲酒行動(開始、終了、量の調節)を制御することが困難
- いつも泥酔するまで飲んでしまう
- 休肝日と決めても飲んでしまう
- 飲み始めたら止まらない
- 前もって決めていた量以上に飲んでしまうことがしばしばある(たとえば2杯までと決めていたのに3、4杯飲んでしまう)。
3.断酒や節酒による離脱症状の出現、離脱症状の回復・軽減のために飲酒する
イライラする
眠れなくなる
手がふるえる
その他の症状
- 吐き気をもよおす
- 微熱がある
- 頭痛
- 寝汗をかく
- 迎え酒をする
- 脈がはやくなる
- 食欲がない
4.当初得られた酩酊効果を得るために、飲酒量が増加する
- 飲む量が増えている※
- たくさん飲まないと酔えなくなった
- ※習慣的に飲酒するようになってから、お酒の量が純アルコール量で女性40g超、男性60g超、かつ50%以上増加した。
5. 飲酒のために、本来の生活を犠牲にする。飲酒に関係した行為や、アルコールの影響からの回復に費やす時間が増加する
- 1日中飲んでいる
- 1日中酔いが続いている、もしくは酔いからさめるのに多くの時間を使っている
- 趣味などの活動よりお酒を優先させる
6.心身あるいは社会生活・家庭生活に問題が生じているにもかかわらず、飲酒を続ける
- 医師からお酒を控えるように言われているのに飲んでしまう。
- お酒の飲み過ぎで健康診断で再検査となってしまっても飲んでしまう。
- ※編集/融道男ほか監訳. ICD-10 精神および行動の障害―臨床記述と診断ガイドライン― 新訂版. 医学書院; 2005. P87(より作成)
- 「アルコール依存症は脳の病気である」という面を詳しく教えて下さい
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脳は便利や快感を認識するとその状況を記憶に定着させるために、快感物質を放出するようにできていて、その脳回路が関連するのです。
飲み続けていると脳に変化が起き続けるので、飲酒のコントロールができなくなり、アルコール依存症になります。この変化には個人差が大きく、同じ量を飲んでいても変化が起きる人と起きない人がいます。
脳に起こる変化はそれ以外にもあり、ビールサーバーの写真をたった一枚見ただけで脳が飲みたくなるような変化を起こすことがわかっています。また、視覚だけでなく五感を通して飲酒に関連する刺激に反応して飲みたい気持ちが浮かんで来たりします。ですので、治療においても些細な刺激で脳がお酒を飲みたくなることを理解し、「居酒屋の前は避けて通る」など、支援を工夫する必要があります。
- 酒好きとの違いはなんですか?どこからが依存症ですか
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アルコール依存症と酒好きの違いは、お酒を飲む量や時間をコントロールできるか、お酒を控えるべき状況で控えることができるかどうかです。「明日は朝早く運転するから、今日はいつもよりお酒の量を控えよう」と考えた時に、違いが出ます。
単なる酒好きは、飲酒のコントロールができるので、想定通り飲酒量を減らせます。一方、アルコール依存症の場合、想定通りの量に留めることができず、結局のところ、いつもの量を飲んでしまいます。
実際は、コントロールできるかどうかは、白黒はっきりせず、なだらかに移行します。毎回コントロールできる⇒時々コントロールできない⇒たびたびコントロールできない⇒毎回コントロールできない、という経過です。ですので、どこからが依存症というはっきりした線引きは難しいと言えます。
質問の意図から多少外れるかもしれませんが、同じような状況を別の病気で考えてみましょう。例えば、癌や虫歯を想像して下さい。依存症と同じように初期の場合は正常と異常の境界は見分けにくいものです。このような場合、正常か異常かを正確に区別するよりも、早期に治療を開始することが重要になります。話をアルコール依存症に戻しますと、どこまでが単なる酒好きでどこからがアルコール依存症という区別をするよりも、依存症が疑われる時点で受診することをお勧めします。
- アル中とアルコール依存症って違うのでしょうか?
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アル中という表現はアルコール中毒の省略表現であり、厳密に言えば慢性アルコール中毒のことを指し、毒に中(あたる)という急性中毒と少しニュアンスが違う表現になっています。
この慢性アルコール中毒と、多量の飲酒をした直後に生じる急性アルコール中毒と区別するために、1975年に世界保健機関(WHO)が慢性アルコール中毒という表現を使用しない方針を決定したために、アルコール依存症と表現されるようになりました。
- お酒を飲み続けたら強くなると聞きますが、依存症にはならないのですか?
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お酒を飲み続けていると、耐性と呼ばれる変化が生じます。
耐性というのは、簡単に言えば「慣れること」であり、肝臓でお酒を分解する能力が少し高まります。
ですが、この「強くなる」という現象は、結局それだけ多くの量を飲酒することになるので、脳にとってはむしろアルコール依存症になるリスクが高くなると考えた方がいいでしょう。
- アルコール依存症になりやすいお酒の飲み方やお酒の種類はありますか?
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大きく4つに分けて解説します。
1つ目は、寝酒の習慣です。寝るためにお酒を飲むと、次第に同じ量では 寝付きが悪くなり、熟睡した感覚が失われ、充分に寝た感じがしなくなります。その後は不眠と飲酒の悪循環となり、寝るためのお酒の量が次第に増えて、 コントロールが効かなくなる依存症へと発展する危険性が高まります。
2つ目には、日々のストレスや不安をお酒で紛らわす習慣が挙げられます。
不快感を取り除くためにお酒を飲むことは当初は一定の効果を示しますが、次第に飲酒をしても不快感を取り除くことが難しくなり、さらにお酒を飲んで気持ちを紛らわそうとする悪循環になります。そのため、お酒を飲むこと以外のストレス発散方法やリラックスの手段などを準備しておくことが大切です。
3つ目には、迎え酒の習慣です。迎え酒をする人の中には、離脱症状を回避するために朝から飲酒をせざるを得なくなっていることがあり、この状況は、アルコール依存症に片足を突っ込んでいる飲み方であると言えるでしょう。
最後に、依存症になりやすいお酒の種類についてですが、現在のところの見解は得られていません。ただし、アルコール度数の高い飲料の方が摂取するアルコールが増える傾向があるために、飲酒によって引き起こされる問題は大きくなりがちです。度数の高いお酒は、なるべく薄めて適量を飲むことが、お酒との良い付き合い方の一つになり得るでしょう。
- アルコール依存症になる人は意志が弱い、だらしない人なのでしょうか?
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アルコール依存症はお酒のコントロールを失う脳の変化によるもので、意志の強さには関係せず、飲酒習慣と個人の体質に大きく影響を受けます。
お酒に関する問題が増えているにもかかわらず、お酒を飲むことをやめることができなくなっていますので、「意志が弱いのでは?」と誤解されることも少なくありません。
アルコール依存症を抱える人と関わっている立場の意見ですが、むしろ意志が強い人のほうが多いのかも?という印象があります。
アルコール依存症Q&A 参考著書:編集/樋口進(監修)、長徹二(著).市民のためのお酒とアルコール依存症を理解するためのガイドライン.慧文社;2018. P56-127.