アルコール依存症とは

アルコール依存症は、多量の飲酒を続けることで脳に障害が起き、自分の意思ではお酒の飲み方(飲む量、飲む時間、飲む状況)をコントロールできなくなる病気です。はじめのうちは、快楽を得るために飲酒しますが(正の強化)、次第に飲まないと不快な気持ちが強くなり、その不快感から逃れるために飲酒するようになります(負の強化)(下図)1)。
アルコール依存症になると飲みたい気持ちがおさえられなくなり、飲酒量が増えるため、体や心に悪影響を及ぼし、仕事や家庭に支障をきたすようになります。
アルコール依存症の進行に伴う欲求の変化

Koob, G. F. : Front. Psychiatry, 4, 72, 2013
アルコール依存症(alcohol dependence syndrome)のICD-10診断ガイドライン
過去1年間に以下の項目のうち3項目以上が同時に1カ月以上続いたか、または繰り返し出現した場合
- ※融道男ほか監訳: ICD-10 精神および行動の障害―臨床記述と診断ガイドライン― 新訂版, P87, 医学書院, 2005を参考に作成
3つ以上が当てはまる方※
お酒のコントロールがうまくできない病気の可能性があります。あなたの健康や生活がお酒によっておびやかされています。あなたと、あなたの大切な人たちのすこやかな暮らしを守るために、お酒による問題の克服に向けた治療を始めてみませんか。
- ※3つ以上が同時に認められる方
アルコール依存症になりやすい人の特徴

女性
女性は男性に比べてアルコールの分解速度が遅いため、お酒に弱くアルコール依存症になりやすい傾向があります。

高齢者
高齢者は若年者に比べて少量の飲酒でも血中アルコール濃度が上昇しやすいだけでなく、中枢神経も影響を受けやすいため、アルコール依存症になりやすい傾向があります。

未成年
未成年者*は成人に比べてアルコールの分解速度が遅く、体内にアルコールが長時間残るため心身に悪影響を及ぼしやすいことが知られています。
飲酒開始年齢が早いほど、成人になってから大量飲酒やアルコール依存症になりやすくなる可能性があります(下図)2)。
- *未成年者の飲酒は法律で禁止されています。
飲酒開始年齢とアルコール依存(海外データ)

- 対象
- 米国在住の18歳以上の一般人42,862例
- 方法
- 面接調査を行い、アルコール依存症の有病率と飲酒開始年齢との関係を検討した。
Grant, B. F. : Alcohol Health Res. World, 22(2), 144-147, 1998より作成

飲酒後、顔が赤くなりにくい方(アルコールの分解酵素が低活性型)
日本人の7%は、アルコールの分解速度が遅い酵素(低活性型)を持っているとされています3)。アルコール依存症患者さん全体のうち約30%がこの低活性型を持つタイプであり3)、このタイプは飲酒により顔が赤くなりにくく、お酒は飲めるが翌日までアルコールが残りやすいとされています。
アルコール依存症の患者数

2013年に行われた全国調査によると、生涯アルコール依存症を経験した方は約107万人と推計されています4)。これは、日本人口のおよそ100人に1人が当てはまると考えられ、飲酒する方にとって、アルコール依存症は身近な病気と言えます。
近年、仕事や家庭をもち普通に生活している方の中にアルコール依存症の問題が潜んでいることが指摘されています。また、中年男性だけでなく、若い男性・女性や高齢者のアルコール依存症患者さんが増えています。
- 文献
-
- 1)Koob, G. F. : Front. Psychiatry, 4, 72, 2013
- 2)Grant, B. F. : Alcohol Health Res. World, 22(2), 144-147, 1998
- 3)横山顕. : Prog. Med., 33(4), 915-919, 2013
- 4)Osaki, Y. et al. : Alcohol Alcohol, 51(4), 465-467, 2016
アルコール依存症の治療
治療目標の基本はお酒を断つことですが、お酒をすぐに止めることができない場合は、まずは飲酒量を減らすことからはじめることでアルコールによる害を減らすというハームリダクションの考え方が広まりつつあります。